【映画感想】「TAR/ター」
公式サイト:映画『TAR/ター』公式サイト – GAGA
2023年5月12日公開。監督、脚本はトッド・フィールド、主演はケイト・ブランシェットです。
第95回アカデミー賞では、作品賞、監督賞、主演女優賞、脚本賞、撮影賞、編集賞の合計6部門にノミネートされていました。
あらすじ
リディア・ターはベルリン・フィルハーモニー管弦楽団における女性初の首席指揮者であり、作曲家としても指揮者としても当代随一だと評価されていた。そんな輝かしい功績と将来を約束されたリディアであったが、ある日かつての教え子が自殺したというメールが届く。このメールをきっかけにリディアは徐々に精神の平衡を失い始める。
感想
物語を通して語られるリディア・ターの無敵とも思える輝かしい功績と将来そして権力。これらが崩壊していく様子はまさに現代のキャンセル・カルチャーだ。美しいオーケストラと醜い人間感情の不協和音が作中も耳にこびりついて離れない。
今までこんなストーリー構成を観たことなかったので少しびっくりしました。まずエンドロールから始まるので困惑しました。そのあとは、リディア・ターの輝かしい功績が語られて、あらすじにもある告発をうけてからは、堕ちていくという展開ですが、前半の功績の部分がこれでもかというように丁寧に描かれています。たぶん半分ぐらいの人が「こいつはやく堕ちないかなー」と思いたくなると思います。でも、この前半が丁寧だからこそ、クライマックスが際立っているような気がしました。クライマックスは観る人によって、バッドエンドなのかグッドエンドなのか分かれると思います。僕の考察はおまけのところに書いておきます。
観ててすごいと思ったのはサウンド部分と主演のケイト・ブランシェットです。まずサウンド部分ですが、オーケストラ部分はいわずもがな、それ以外のすべての音もすごいです。作中、主人公が音を気にしはじめるシーンがあるのですが、その部分でたしかに観てるこっちも気になります。しかし、そのワンポイントだけでなく、それ以降、足音、環境音すべてが耳に残り始めてまるで主人公の耳とリンクしたような感覚でした。この作品を観てる間だけ絶対音感になれた気がしました。
次に主演のケイト・ブランシェットについてですが、この作品の序盤を観たときに「この指揮者の人って実在するのかな?」と思ったほどにすごかったです。実写映画なのでリアルなのは当たり前なんですが、見た目のリアルさではなくて、内面的なリアルさを感じました。作中で切り取られた部分だけでなく、どこで生まれてどういった教育を受けて、という作品で描かれるまでの人生を理解してるからこその演技だと感じました。特に記憶に残ったのは、オーケストラでの指揮シーンすべてと講演会のシーンです。指揮のシーンはとにかく本物。動き的な部分で好きです。講演会のシーンは内面的な部分で好きで、司会者に焚きつけられてというのもありますが、謙虚さを装いつつも、傲慢な感じが少し隠しきれてなくて好きです。あんまり賞とかは言いたくないですが、エブエブと被らなければ主演女優賞だったと思います。
映像も少し特殊な感じがして観てて不思議でした。専門家ではないので書くことが正しいかわかりませんが、フォーカスしている場所が人やモノではなく、音なのではないかと思いました。だからこそ、前述した音が気になるようになっているのではないかな~と個人的に思いました。ぱっと見で分かるぐらいの特殊さではなくて、なんか不思議だな~と思うレベルの細かい感じなんですよね。こればっかりは、文字では伝えづらいのでぜひ本編をご覧になってみてください。
音の表現とケイト・ブランシェットの演技はとにかく必見、必聴です。ストーリーもわりと現代的で考えさせられる内容だと思いました。特にクライマックスはいろんな考察ができると思うので、興味があったらぜひぜひ。あと映画館で観れるうちは映画館がおすすめです。
おまけ
ネタバレ注意
エンディングについてですが、グッドエンドだと思います。
クライマックスで主人公リディア・ターが指揮するのはモンハンワールドの曲です。あんなに、クラシックの名曲を素晴らしいホールで指揮していた主人公がゲームの曲のオーケストラなんてと思うとバッドエンドに観えます。しかし、ここで最も注目すべき点は2つで、オーケストラを聞いている観客の人たちと主人公が最後まで手放さなかったものです。
まず観客についてですが、前半部分のオーケストラではいわゆる評論家や関係者の政治的な部分も混じって純粋な音楽のファンではないのかなと思います。ですが、クライマックスでの観客たちは純粋に演奏している曲を愛している。それが分かりやすい描写として、わざわざコスプレまでして聞きに来ています。
次に主人公が最後まで手放さなかったものこれは音楽です。評価が地に落ちて、実家に帰っても音楽は捨てませんでしたし、エージェントサービスを使ってまでも指揮者という道を捨てませんでした。
このオーケストラと最後まで捨てなかった音楽という点を加味すると、クライマックスで純粋に音楽を愛している人たちに指揮者として、音楽を届けることができた主人公は幸せだったんだと思います。
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